#名刺代わりの小説10冊
— とうや(TOUYA)🐶 (@senzilife) 2020年5月13日
幼年期の終わり/クラーク
あなたの人生の物語/テッド・チャン
向日葵の咲かない夏/道尾秀介
黄金風景(きりぎりす)/太宰治
ジェノサイド/高野和明
魔王・砂漠/伊坂幸太郎
恋文の技術/森見登美彦
掟の門(カフカ短編集)/カフカ
推定少女/桜庭一樹
変種第二号もおもろいよ!
どうもお久しぶりです。
今回は私のTwitterの固定ツイートにある
#名刺代わりの小説10冊の紹介をさせていただければと存じます。
あんまりネタバレを含んでも仕方ないので、どちらかといったら超個人的な僕の思い出を絡めてのお話です。深い考察とかは出来ませんのであしからず笑
それではスタートです。
もくじ
幼年期 の終わり
アーサー・C・クラーク
個人的には今まで読んだ本の中で一番面白いと思っているSF小説で、著者はあの『2001年宇宙の旅』を手掛けたSF小説界の神。アーサー・C・クラークです。
■簡単なあらすじ
ある日、世界中の都市の真上に巨大な円盤が降りてきます。人類はどうにかして対抗しようとしますが、全く歯がたたず、宇宙人達は人類に「人類同士の戦争と内乱」を辞めるよう呼びかけます。宇宙人達は人類が戦争を起こさない限り不干渉を誓うのです。一向に姿を見せない宇宙人による平和な統治が続き、人類は今まで戦争に割いていたリソースを全て、医療技術や教育制度の向上に注いだ結果、統治から数十年で人類は目まぐるしく程の進化を遂げることになります。やがて宇宙人達は同士討ち(戦争)をしなくなった人類に対して「ようやく幼年期が終わったな」と告げるのです。
どうですか?めちゃくちゃ楽しそうじゃないですか?
- この小説のおもしろポイントはまだまだ沢山あるんですが、上記のあらすじだけでもまだほんの序盤であり、この後のストーリーが大変濃厚なものとなっております。
- 宇宙人達はなんの目的があって地球に来たのか?
- 何故、人類の進化を促すのか?
- 何故、人類に姿を見せてはいけないのか?
小説自体は3部構成に別れており、中盤から終盤にかけて全く先が読めない展開へと突入していきます。宇宙人の正体がこの小説最大の伏線となっており読後の「やられた」という感情は今でも言葉では言い表せられません。宇宙人の正体が実は未来人だったなんてよくあるつまんないオチじゃないですよ。
また、この小説の初版発行が今から半世紀も昔の1953年というところも驚きの一つです。本当に良いものは古さを感じさせないと言いますがまさしくその通りだと実感しました。
▼作者のこちらの作品もオススメ
あなたの人生の物語
テッド・チャン
面白すぎる。
まずテッド・チャンの何がすごいって「あなたの人生の物語(短編集)」「息吹(短編集)」この二冊、合わせて18篇しかストーリーを書いていないのにヒューゴ賞、ネビュラ賞、シオドア・スタージュン賞、星雲賞など世界のSF大賞を20冠以上総なめしているガチのバケモンです。短編集といってもそのお話の構成の出来は凄まじく、きちんとした科学的考証を基に描かれているので、とても短編とは思えない情報量です。
■簡単なあらすじ(一部抜粋))
だいぶ長くなるので一番の有名作「あなたの人生の物語」だけ読んでいただいても結構です。
バビロンの塔
神話、バビロンの塔がモデルとなったお話、天まで届く塔の建設の為、男が何日もかけて塔を登る描写がリアルに描かれている。高すぎる塔の途中、独自に発展した文化や経済が細かな描写で表現されている。「建設工具を塔の上から落っことしてしまったら、また次のキャラバンがくるまで何日も待たないといけないが、人間は塔には沢山いるので道具を落とすより人間が落ちる方が工事の進捗は遅れない」そんな会話がとても印象的。
理解
不慮の事故により、脳に深刻なダメージを追ってしまった主人公が、万能細胞を脳に移植する実験的なオペを受ける所からストーリーが始まる。万能細胞の影響で脳のシナプスが常人の数倍活性化され、情報の処理速度が格段に上がり脳内シンギュラリティーが起こる。最初はその情報量の多さに発狂と覚醒を繰り返す主人公だったが、次第に慣れていき、その優れた頭脳を使って、企業をいくつも買収していく。
しかし、ある日突然、自身が所有している企業の経営がいくつも傾き、疑問を覚える主人公。その傾いた企業の頭文字を揃えると、とあるメッセージが…「自分以外にも万能細胞を注射した人間が存在する」天才VS天才の頭脳戦が始まる!
てな感じのストーリーです。「今の人類の文字には無駄が多すぎる」と自身の思考を具現化する為に文字の開発を自身で行っちゃうあたりがマジでヤバいなと思いました。
顔の美醜について
実際に著者のフィールドワークに基づいて書かれた近未来SF物、全世界様々な美的価値観がある中、共通して美しい顔とされているものが何かご存知ですか?それは…
映画化もされた近代SFの名作。人類と宇宙人のファーストコンタクトを描いた作品だが特記すべきはそのコミニケーション手段の難しさである、概念も姿形も異なる宇宙人に対して共通の認識を持ってもらうにはどうすればいいのか、言語学者が試行錯誤を繰り返すという話、一から宇宙人の言葉を考えたりなど徹底的な科学考証の基に描かれているので大変細かい演出となっている。
宇宙人が人類とは姿形が異なる為、文字やそれに伴う構文の概念も異なる。この考えは完全に盲点でした。
▼根強いファンが多く、度々youtubeにて解説動画が上がっているほどです。
いかがでしたでしょうか。テッド・チャンに関しては短編集といってもそのストーリーが濃厚な為、一冊で記事が一つ書けてしまう程です。各お話ごとに全くテイストが異なり作者の知識の幅の広さが伺えます。
▼作者のこちらの本もオススメ
向日葵 の咲かない夏 道尾秀介
はい、突然SFじゃなくなるんですよ。
道尾秀介の代表作の一つですね。友人からのオススメで同作者の「光媒の花」を読み「あ、この人の文章好きかも」と代表作を読んだらこれがまた、楽しかったんでお気に入りの一冊です。可愛らしい表紙に完全に騙されて購入をしてしまいました。
■簡単なあらすじ
10歳の少年ミチオと3歳の妹ミカの目線で物語は進行していきます。内容としてはミステリー・ホラーといった塩梅です。
ある夏の日ミチオは親友のS君が首を釣って死んでしまっているのを目撃します。急いで警察を呼びますが戻る頃には死体は消えており、その数日後、S君の生まれ変わりだと名乗る喋る蜘蛛と出会います「僕は殺されたんだ」。ミチオは蜘蛛となってしまった友人の言葉を信じ、身の回りの怪しい大人たちを捜査していくお話です。
序盤は良いんですよ、序盤は。
初めは幼い妹と喋る蜘蛛の少年探偵団的な展開が楽しかったんですが、街中で相次ぐ動物の不審死(描写がめちゃグロい)やミチオとミカの母親の精神疾患など次第に雲行きが怪しくなっていきます。ホラー要素も強く、日常の子ども達の中に敢えて「狂気」を混ぜることでその異常さが際立って行きます。また最後の大どんでん返しが凄まじく叙述トリックの最たるものを垣間見ました。感覚としてはグロ描写は乙一に近いものがあり、苦手な人は注意が必要です。
伝わるか微妙ですが、ゲーム『ぼくのなつやすみ』のバグである幻の32日目に突入してしまった感覚に似ています。次第にどんどん『真実』という名の『狂気』が現実世界を侵食していく感覚です。
▼作者のこちらの本もオススメ
黄金風景 太宰治
大好き過ぎて以前、僕が他の記事で感想文を書いた作品です。高校の現代文の教科書に記載されており、授業そっちのけで読んでいました。(そんなんだから国語の成績は良くなかったです)
■簡単なあらすじ
名家の生まれの主人公の青年は現在、家を追い出され見知らぬ土地で世捨て人のような生活をしています。そんな青年の元に一人の警察官が訪れた所からお話が始まります。
警察官は住民票の確認をしている最中で青年の素性に気づき、「私の妻が以前、貴方の家で奉公をさせていただいていた、良かったらその妻に会ってやって下さい」とせがまれます。青年は幼き頃とても傍若無人な性格をしており、奉公に来ていたその女性を虐めていたのです。あまりにもバツが悪い上に今の自分の落ちぶれた姿を見せられるはずも無く断りますが、警察官に押し切られて…
因果応報の勧善懲悪でもなければ、胸くそ悪い展開でもない、わずか6Pにここまで心理描写を織り込めるなんて、全く流石の太宰先生!ってな感じの作品でした。最近ではKindle版では無料でダウンロード出来るみたいなので是非です。最後の爽快感を未だ超える作品に出会っていません。人として何が一番大切か教えてくれる作品です。
ジェノサイド 高野和明
やっぱり人間が一番怖いんだなぁ系のお話です。
傭兵のアクションシーンが多く、伊藤計劃の『虐殺器官』が好きな方なら間違いなく好きだと思います。また、引用文献の数も豊富で実にアカデミックな内容となっています。ジャレッド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』などにも一部重なるシーンがあります。科学的考証とハリウッドのようなド派手なアクションをハイブリットさせた最強のエンタメ小説です。
■簡単なあらすじ
創薬科学を専攻する大学院生の古賀研人と特殊部隊出身の傭兵ジョナサン・イエーガーこの二人の視点でストーリーが展開していきます。
研人は急死した父から送られてきた不可解なメールを手がかりに父の遺産である謎の研究施設にたどり着きます。「父はいったい何を研究していたのか…?」
一方その頃、ジョナサンイェーガーは難病に冒された息子を救う為にある極秘依頼を受けていました。事前に明かされた内容は「人類全体に奉仕する仕事」という内容の暗殺作戦とだけ、戦争状態にあるコンゴのジャングルに突入するが…
というものです。まぁ平たく言えばそのコンゴのジャングルに全人類を揺るがしてしまう程の何かがいるから「暗殺してこい」とアメリカの大統領から命令を受けたって感じなんですよね。
小難しい科学的考証は全部、日本人院生の研人君が分かりやすく説明してくれるので、ジョナサンの派手なアクションシーンに集中出来ますし、科学的な話は一旦おいておいても作品自体がしっかりとしているので充分楽しめます。(僕でも楽しめたので余裕です)
アイアンマンとかってあれめちゃくちゃロジカルな内容じゃないですか、でも派手なアクションと楽しい脚本があるからアイアンマンがどんな技術で空を飛んでいるんだろうか?なんて考えなくても最後まで見れるじゃないですか。まさしくそんな感じです。
人類の進化と差別
少しネタバレですが、こちらの作品のテーマは明らかに「進化と差別」です。描写の中に人類が戦争を行う理由が説明されているシーンがあるのですが、「戦争とは両者の力関係が均衡している際には起こり得ない、力が無いものが侵略を受ける侵略戦争か、もしくは力(ここでいうと資源や技術)が無いものが力を略奪をしようとする略奪行為しか存在しない(だいぶ意訳)」生き物の中で唯一同種を虐殺するのは人間しかおらず、もはやそれは人間の特性だろうという内容のものです。(勿論、諸説あり)
現人類以外にもかつては沢山の猿人達が肩を並べていました。しかし、何故、現在は人類一種しかいないんでしょうか。中には人類より脳の体積が大きい種であったり、体長が平均2メートル近い種まで存在していたのにも関わらずです。
恐らくですが、現人類が持つ最も根幹にある特徴は「自分とは違う姿形の物を嫌い、滅ぼす。」これがあっただけなのでは無いでしょうか。これは子どもながら読んでいて当時は衝撃を受けた内容でした。
過去の人類史が物語っている一つの事実ではありますが、もし仮に新人類が誕生したとしたら現人類の滅亡は免れないと語っている科学者も中には存在します。人類史はいくつもの文明同士の衝突を描いて来ました。しかし決まって滅ぼされるのは「文明レベルが劣っている先住民族達です」そんな特性をもつ人類に対してより進化した新人類が生まれてしまった場合、同じことが繰り返されるだけといった内容です。
また、主人公の研人の親友が朝鮮人の設定もあり、日本と彼の国間の微妙な関係についてもだいぶ痛いところを指摘されている箇所があります。読者に関しても「人間の特性って差別とかなんか~」と漠然に読んでいたら、「身近にもいますよね?差別する人?どっちが悪いかとかどっちが最初に手を出したとかではなく、ただ嫌悪する人たち」と突然、現実味のある返しを受ける内容になっています。
作者も少し、映像化を視野に入れていたらしく、ハリウッド映画の様なアクションと日本の刑事ドラマの様なミステリー要素を巧みに掛け合わせている作品で、その完成度の高さに驚かせられます。未だにエンタメ小説ではこの作品を超えたものは僕の中ではまだありません。
▼ジェノサイドに似ている作品
▼引用文献に近しい作品
五冊を紹介してみて
ぱぱっと書き上げるつもりがめちゃくちゃ長くなってしまい、気がついたら2回に分けることを決意する形になってしまいました。10冊を紹介していく!とか言って「ジェノサイド」の文庫本はバリバリの(上)(下)に別れているんですよ。焦ってハードカバー版の方を見つけて来て「はい、セーフ」ってしました。大人をなめるなよ。
それでは後編は今しばらくお待ちいただけますと幸いです。