会話に困った時に使える!'架空の友人'の千字ストーリー

昔話、日々の変化、思い出話、友人からの噂話、そんなのをまとめておきます。この話はおもに友人から聞いた小話として合コンやアイスブレイク、気まずいあの子との2人きりの時間とかに使って下さい。

『黄金風景』(太宰治)を読んで。(わずか6ページの大作)

どうも千字lifeのとうやです。

今日は新潮文庫『きりぎりす』に収録されています。

黄金風景

について書いていきたいと思います。

 

もちろんめちゃくちゃネタバレです。

 

文豪 太宰治昭和14年3月に国民新聞にて上林暁と共に当選したこの短編小説はわずか6ページと短いものですがとても強いメッセージ性を持っている作品となっております。

ほとんど芸術にも似た、一切無駄のない構成力の高さが伺える太宰の隠れた名作です。

 

 ■どんな話?

主人公の「」は裕福な家庭で育った小説家志望の青年。プライドがとても高いのが特徴です。

 

しかし、彼は現在、家を追い出され酷く落ちぶれた生活をしています。

そんな彼の脳裏に浮かぶのは20年程前のかなり質(タチ)の悪かった頃の自分のことばかり。

 

まだ、幼い少年だった「私」はその幼さ故に残酷で。いつも女中のお慶(おけい)をいじめていました。お慶はうすぼんやりとしている女性で、仕事中にも関わらず時折手を止め、ぼーっと立ちつくしてしまう。少し『足りない女性』でした。

 

そんなお慶に「私」はいつも苛立ち暴言を浴びせ続けています。

 今思っても背筋が寒くなるような非道な言葉を投げつけ

私はほとんどそれが天命でもあるかのように、お慶をいびった。

『黄金風景/太宰治』引用

 

時にはお慶を呼び立て

おい、お慶、日は短いのだぞ

など大人びた口調で罵ることもしばしば。

 

しかし、時は流れ現在。過去の栄光は虚しく、ボロボロの家で病に伏せることしか出来ない「私」は再びお慶と対面することになります。

 

 ■お慶との再会

ある日「私」の下に中年の警察官が戸籍を調べの為にやって来ました。

この男は書かれてある戸籍書の名前と写真を見比べながら、変わりきった「私」をまじまじと見つめ。

もしかして○○の坊ちゃんではないですか?

と問いかけます。

なんと、この男は主人公の「私」と同郷の者だったのです。

 

久しぶりの再会に喜ぶ男をしり目に「私」は

現在の廃れた姿を見られたくはなく、咄嗟に苦笑してその場をごまかそうとしますが。男の口から

 

「お慶がいつも貴方のお噂をしています」

 

と衝撃の一言を告げられます。

なんとこの男はお慶の旦那さんで、

現在、お慶は沢山の子宝に恵まれ、家族仲睦まじく。幸せに暮らしているとの話を受けました。

 

「私」は過去にお慶におこなった数々の悪行を思い出し、狼狽えますが。男はそのようなことは一向にかまわないという表情で。

 

「今度、八歳の末っ子を連れてお慶と三人で挨拶に伺いますよ。」と笑顔で提案します。

 

プライドの高い私は現在の落ちぶれた姿を見せたくないというと、過去の悪行に対する自責の念によるが重なり、面会を拒もうとしますが

 

押し切られてしまいます。

そして三日後、いつお慶達がくるのか気が気ではなかった「私」ですが

(こんなドキドキ嫌だわ)

 

等々金銭のことで思い悩み何か宛がないかと家を出ると。偶然、お慶と旦那そして間から手をつないでやってくる男の子が輝いた景色の向こうからやってきました。

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■黄金風景

なんでわざわざ金を借りに行くタイミングで来たんだ。

恥に耐えきれなくなった「私」は

私はこれから用事があって出かけなればなりません。お気の毒ですが

 

一方的にお慶夫妻を振り切り、その後は一度も振り替えず地団駄を踏むようにしてその場から逃げ出してしまいます。

 

お慶は品のいい中年になっており、絵にかいたような美しい3人の家族がそこにはいました。それと比較した「私」は余りの悔しさに、

 

心の中で何度も

負けた、負けた

と呟くのです。

 

お慶たちをまくために、しばらく歩いたあと、帰路についていると。

家の近くの海岸で楽しそうに遊ぶお慶達の姿が、「私」の耳には彼らの話し声が聞こえます。

 

男(お慶の旦那)「頭のよさそうな方じゃないか。あの人は今に偉くなるぞ」

 

お慶「そうですとも、あの方は(中略)目下のものにもそれは親切に、目を掛けて下さった。」

と誇らしげに「私」について語る、お慶達の姿がそこにはありました。

 

金銭面、世間体、健康面、人間性

 

全てにおいて負けてしまった主人公の「私」

過去に愚鈍な女中だと見下していた彼女に完全に追い抜かれていました。

 

「私」のプライドの高い彼の性格を鑑みると

その真実に打ちひしがれ、悔しさのあまり絶叫しそうですが。

物語はこの一言で幕を下ろしています。

 

負けた。これは、いいことだ。

そうなければ、いけないのだ。

彼らの勝利は、また私のあすの出発にも、光を与える。

『黄金風景/太宰治』引用

 

 

■結びに

営業成績、テストの点、部活のスタメン、習い事、恋愛、全てにおいて負けたくない相手って誰でもいると思います。

 

また、つまらない嘘をついてしまったり。くだらない意地をはってしまったり。

人間、誰しも生きていればそんな生きる上での見栄もあると思います。

 

僕がこの小説に心を打たれた理由は題材の「私」が僕にかなり近い存在だと思ったからです。

つまらないプライドでがんじがらめになり

『殻に籠って、傷つくことを恐れ理論武装している自分』と『素直に過去の自分に向き合えず、ましてや今のお慶に謝罪も出来ない「私」』を重ね合わせたからです。

 

弱くて臆病な自分を変えるには

辛いし痛いししんどいけど敗北を受け入れないといけない事もあります。

それが希望になり自身の成長に繋がる。

そんなことを一番初めに教えてくれた大切な作品です。

 

 

きりぎりす (新潮文庫)

きりぎりす (新潮文庫)

  • 作者:治, 太宰
  • 発売日: 1974/10/02
  • メディア: 文庫
 

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