どうも千字lifeのとうやです。
今回は僕が大好きなSF小説を読んだので忘れないうちにメモを残したいと思います。
勿論、ネタバレだらけですし、めちゃくちゃ長いです。
あと古典SFなのでそもそもそういった耐性ないとキツイです。
それでも大丈夫だよって人がいたらよろしくお願いいたします。
ブライアン・W・オールディースが1961年に書いたこの小説は人類文明が崩壊してから数千万年~数億年後の未来の地球を舞台に描いています。
◼登場人物紹介
リリヨー
僅かに生き残った人間族のリーダー、勇敢で頭がキレる大人の女性。
部族の掟に従って月に向かうが月の重力場の影響により羽毛に覆われた鳥人間という変異体になってしまう。
この時代のSFはすぐ月とか変異体とか出してくるからしんどいです。
主人公の容姿をイメージしづらい形に変えるなって思います。
説明がムズいので取り敢えず。
ワンパンマンの敵キャラのフェニックス男の写真を載せておきます。
こんな感じです。
↓↓↓
美女の主人公が一瞬でこんなんなったら小説閉じるわ…
ワンパンマン/集英社
グレン
もう一人の主人公。地上に残った子供達の一人、
人類の思考が低下している中、他の子供と違い頭がいい。
横暴な奴。
アミガサダケ
非常に高い知能を有する、脳繊維で出来たアメーバ状の黒いキノコ、人間や他の生物の頭部に寄生し知恵を授ける代わりに宿主の脳を支配する。一見、共存関係のように見えるが単なる見せかけ。
グレンに寄生し、自身の分身を増やす為に更なる宿主(人間)を探させようとする。
寄生した生物の遺伝子情報を読み取って、
進化の起源も含めた全ての記憶を読み解くことが出来るのでこの世界ではチート
とりこ(俘虜)
その名の通り、捕らわれている奇形の鳥人間達、月の鳥人間を束ね、独自の統治論を有す。賢者。
ポンポン(魚取り)
この時代ではありえない太り方をしていて、長い尻尾は木に繋がっている。木からは耐えず栄養が補給されているので食には困らないが、ジャングルの木々の奴隷として日々、食料調達をさせられている。
脳を侵されているので愚鈍で知能は極めて低い。
グレンにデブだからポンポンって名づけられた。
この作品きっての
扱いの酷さを誇り、
他の追随を許さない鉄壁の姿勢。
トンガリ
顔が醜い兎の様な感じの亜人。キモい。
■ソーダル・イー
全知全能を自称する話せる魚。ウザい。
人間の奴隷を何人か所持しており、陸では奴隷に自身を運ばせている。
■緑に覆われた地球と月
太陽が大きく膨張し、地軸がズレ地球は永久的に『昼』と『夜』の世界に分断されています。『昼』の世界では沈まぬ太陽から身を守る為に植物が巨大化・獰猛に進化しており生態系のトップに君臨しています。
最後に生き残った哺乳類は人類だけですがジャングルで文明を持たない原始的な生活をしている為、生態系的には最下層、現在で言うところのネズミのような扱いです。
この世界の主な生物は全て植物で、木の根が無くても活動出来る「植物繊維の筋肉」を有した脳がなくとも活動できる現在の動物とはまた違う仕組みの生き物が陸海空を制しています。(しかも全部デカい)
空には月にまで拡大した蜘蛛の巣が天を覆い、
巨大植物蜘蛛が空を支配しています。
世界観としてはノイタミナアニメの「シャングリラ(原作の小説がクソ)」とアニメ映画の「銀色の髪のアギト」がだいぶインスパイア受けているのでないでしょうか。
とにかく壮大な世界観です。
『シャングリ・ラ』オープニングムービー
銀色の髪のアギトOP
■人喰い巨大ジャングルを生き抜く2人の主人公
主人公は巨大ジャングルで暮らす部族の女性リーダーを務めるリリヨーと部族の子供のグレンの2人です。
この2人は文明を無くし思考が徐々に低下していっている人類の中ではかなりまともな考えを持っており、読者に近い価値観で小説世界を解説してくれるので感情移入もしやすいです。
リリヨー達大人は代々部族に伝わるの掟に従い、巨大蜘蛛によって月まで運んで貰う
「魂を天に帰す」儀式を行う為、蜘蛛の巣に突然忍び込みますが、
そもそもなんで
この儀式をしているのか
なんでこの儀式をする
必要があるのか
一切、説明がなく
急遽この儀式が始まるので
読者はいきなり置い
てかれてしまう為、
読んでて難解になるポイントの1つです(笑)
■緑が生い茂る月
リリヨー達大人グループは植物動物の丈夫な殻で出来たカプセルに入り蜘蛛に月まで運んで貰うのですがその途中で皆、身体が月の環境に対応した『鳥人間』に変異します。
突然の変身
月では酸素が薄い為、地球のジャングルのような植物は巨大に成長せず、
リリヨー達は伸び伸びと暮らしていましたが、突如月の先住民である鳥人間(元人間)達に捕まり、村を統治している『とりこ』という長老たちの元へ連行されます。
リリヨー達はとりこから
地球の植物に対して反撃をしかけるある壮大な計画に誘われます。
※この計画がなんだったのか結局最後まで分かりません。
■異形の集団『俘虜(とりこ)』
鳥人間の村を統治しているとりこ達ですが全員自分一人では生きていくことが出来ない奇形な姿をしており、常に村の戦士たちに守られています。
地球で弱肉強食の世界を生き抜いていたリリヨー達は身体にハンディを背負った彼らが何故リーダーなのか疑問を感じ質問をすると、彼らの統治論を話され懐柔されます。
「よい恰好ばかりが大切ではない、知ることが大切なのだ。私たちは動けない代わりに考えることができる」
「治めるということはつかえるということなのだ、力のある者はその力の下僕とならなければならない。自由なのは見捨てられた者だけなのだ。私たちは俘虜(とりこ)※捕らわれているもの だから、話す時間も工夫する時間も覚える時間もある、知っている者だけが他人の剣を操れる力なしで治めているのだ」
これぞ適材適所というものですよね。体の不自由なとりこ達が知恵を与え、村を治める代わりに健常者の鳥人間達が彼らを守り、手足となる。
リリヨー達は植物反逆作戦に参加すべく、巨大蜘蛛の背中に穴をあけ体内に侵入する事で再び地球を目指します。
■異端者グレンと寄生生物アミガサダケ(ほぼ寄生獣)
地球に取り残されたグレン達は新リーダの女の子の下で生活を始めますが、
グレンは他のバカな仲間達とは折り合いが付かず、異端児的な扱いを受け一族のグループから追放されてしまいます。
悲しいですね。
その時、出会ったのがアミガサダケというアメーバ状の黒いキノコ。
このキノコは生物の頭に寄生し、知恵を与えますが時によっては強制的に宿主の身体を動かす事も出来る為、グレンは度々身体の主導権を取られてしまうので、対等な関係ではないです。
今あなたの脳に直接話しかけています。
みたいなこと言ってくる
アミガサダケはグレンの遺伝子から人類文明の繁栄と衰退の全ての記憶を読み取り、人間がかつては宇宙にまでその進化を伸ばしていたことを知り、自身の宿主である人類を増やす為に『人類文明復興』を目指し、各ジャングルにひっそりと生活をしている人間を集め文明復興を遂げようとしますが様々なトラブルや災難がグレンとアミガサダケを襲います。
■寄生生物VS寄生生物(もろ寄生獣)
グレンとアミガサダケは各地域に散らばるの部族を束ねようとしますがうまくいかず、その過程で川の魚を釣ることが得意な<魚取り>という種族を見つけます。
魚取りは醜く肥大した男たちで、その目に知性はなく話す言葉もカタコトです。
皆一様に長い尻尾を腰からたらし、それを命綱にして魚を取っています。
その尻尾は木に繋がっており、彼らは木から栄養を得て生かされている木に寄生された奴隷たちです。
そんな彼らを哀れに感じたグレン達は魚取りの尻尾を切り、自由を与えますが突如、生命線を絶たれた彼らは嘆き悲しみ、僅かに残していた人間性さえ失ってしまいます。
『知性を持ち、人格を有し、自身の判断に従って行動する事が人間である』という主張のグレンの考えは果たして「アミガサダケに操られたものなのか」それとも「自身の身勝手な価値観」なのか分からなくなり、この人類が知性を必要としなくなった世界で一人苦悩します。
グレンは壮絶に魚取りを批判しますが、自身も脳を寄生され生かされているだけなのです。
■四足歩行の巨大植物「アシタカ」
グレン達は解放した魚取り達に太った見た目を模した<ポンポン>というクソ安易な名前を付け。
ポンポンの船を掻っ攫い、ひたすらコキ使って海に進出します。
その過程で到着した島が一つの巨大な捕食器官であったり、氷で覆われた島など数々の災難に見舞われ、最終的には安全で巨大生物がいない無人島に着きます。
船が壊れてしまい脱出する事が不可能となってしまった彼らですが
四足歩行で海を渡り、種を島に蒔く。
巨大歩行植物アシタカに乗り、この島を脱出することをアミガサダケに強要されます。
■迫られる二者択一
・自分達以外に誰もいない安全な島で資源が許す限りゆったりと生活するか
・何処に向かうか分からないアシタカに乗り、極小の可能性をかけて元の大陸に戻るか
この二者択一の選択を迫られます。
どちらの選択にすべきか彼らの心境を織り交ぜてかなり巧妙に描いている点が見ものです。
アシタカは数十年から数百年に一度のタイミングでしか種を蒔かない為、
脱出のチャンスは後にも先にもこの一度きり。
最終的にはグレンはアミガサダケの洗脳もあり仲間を連れ未知の可能性にかけてアシタカにのりますが、その足はジャングルを目指す訳ではなく、真逆の太陽の当たらない『夜』の世界を目指し始めました。
■『夜』の世界
一歩また一歩進むアシタカ達の足取りにグレン達の心には不安と後悔の影がかかります。
それを表現するかの様に景色も次第に重く暗いものへとなり、太陽が届かない薄暗がりな海をひたすら進み続ける描写に代わります。
時には巨大な昆虫に埋め尽くされた島に到着し、他のアシタカが食われる中、グレン達はアシタカを守り続けようやく最後の島にたどりつきます。
そこには醜い兎の顔をした2足歩行の亜人達(トンガリ)が住んでいました。
彼らは獰猛でグレン達を襲おうとしますが
全知全能を自称する魚ソーダル・イーによって救われます。
この辺んからまた意味わかんなくなってきます。
ソーダル・イーはアミガサダケをグレンから引きはがし、
彼はあらゆる地域の伝説を記録・回収する任務についていると話します。
ソーダル・イーはこの最後の島は人間や狼を祖先とする亜人たちが生存戦争を何度も繰り返してきた血塗られた場所であることをグレンたちに告げ、トンガリが有している火おこし技術や言語などはその滅ぼしてきた種族達の名残を使っているに過ぎないと語るのです。
この辺、僕としては人類の文明の進化を縮図として再現しているのかと思いました、また、トンガリの祖先を敢えてぼかす描写があり妙に不気味で背筋が凍ります。
ソーダル・イーは近い将来(数世紀も後の話だが)太陽が爆発を起こしこの世界は滅びると予言しました。
■進化と退化
ソーダル・イーは地球滅亡に合わせるかの如く全ての生物が退化の一途をたどっていると語り始め徐々に植物と他の生物の種を分ける障壁は崩れ始め、次第に生き物は一つの形態に収束されると言うのです。
(人間達が年々にバカになっているのもその為)生き物は進化と退化を永遠に繰り返し、地球が爆発した折には生命の原点まで退化した生き物がまた他の惑星に飛散し、再び進化していくと語りました。
全知全能を目指した先の進化が完璧な平等や種の価値観を超越した存在なのであれば、それは退化だという考えは逆に新鮮で感動しました。
■リリヨー達と合流
一度は撃退したトンガリ達が再び大挙としてグレン達を襲いにかかりますが、
その時偶然空から舞い降りた巨大蜘蛛によって命拾いします。
その巨大蜘蛛の中には鳥人間となったリリヨー達が載っており。
間一髪のところでソーダル・イーとリリヨー、グレン達は巨大蜘蛛を使ってこの島を脱出します。
謎にポンポン達は愚鈍過ぎてグレンにブチギレられて
島に置き去りされてトンガリに殺されます。
この小説の一番の被害者間違いなく彼らです(笑)
■2つの選択。何が幸せなのか
アミガサダケはソーダル・イーと巨大蜘蛛にまで寄生し、その体躯と頭脳、遺伝子の記憶を奪い全てを理解します。
アミガサダケは自身と人間が唯一「知性」を持って進化と退化が繰り返される輪廻を破壊出来る存在だと知り、月を足掛かりに他の人類が生存可能な惑星を探そうと提案します。
リリヨー達はこれに賛同しますが、グレン達は
本当の幸せは種全体の進化や生存では無く、
個人の幸せであると説き、
あるか分からない次なる星を選ぶより住み慣れたジャングルで暮らしたいと提案を断ります。
進化の輪廻に気付き、それを看破するのが知性なのであれば、逆に全ての結末を知ったうえで敢えて“生きがい”を持って暮らすのも知性がなせるワザなのです。
それをアミガサダケは
種全体からみたら余りにも短期的過ぎる目的だと
説得しますが「地球崩壊は数世紀後だとしたら俺も俺の子ども幸せの内に死ねる」とグレン達はまた再び危険が残っているジャングルを選択したところでこの物語は終わります。
この最後の2つの考えはどちらが正しいなどは敢えて書かれてはおらず、
選択を選ぶまでの過程が重要なのだと考えされされる作品です。
最後の二者択一はアシタカの島と同じでいずれは終わりが見えている幸せを掴むか一度は全てを捨ててしまうが更なる可能性にかけてみるのかをスケールは違いますが繰り返したものにすぎません。
この選択にグレン達はきちんと自分達の意思で将来を決定し
アミガサダケも今度は選択を強いることはありませんでした。
選択肢を強要しても長続きしませんし、不幸しかもたらさない事をアミガサダケも気づいたのです。
人間はその知能を持って自身の選択を決定することが出来ますが、ポンポンのように他者に依存し、自身の決定を自分に委ねられないものは総じて不幸な結末を迎えてしまうそんなメッセージ性を強く感じさせます。
これはめちゃくちゃ飛躍ですが、今後人類が火星移住を検討する際など再び議題に上がるテーマになると思います。種全体の幸せか個人の幸せか。みたいな。
恐らく人類は遺伝子とか本能に従って行動する事にもうたいして幸せを感じず、非合理とか不確実なものに幸せがあるそんな偶発的なものをのぞむ体質となってしまっているんじゃないんすかね。
知性があるから引き起こされるその矛盾がまた面白いですよね。
そもそも幸せってなんだっけ?そんなことを考えさせてくれる作品でした。
PS.この記事は初めての読書感想文ということもあり何度も更新しなおしました。